介護の専門家に聞く!今知っておきたい介護ニュース その⑧「通所介護、通所リハビリの統合論議について」

少子化・高齢化がますます進展し、厳しい財政事情の下で社会保障制度改革が進められる中、介護保険制度は医療保険制度を巻き込み、大きく変化・変容することが見込まれます。すでに、平成30年度からの第7期の介護保険制度改正に向けて、議論が始まっています。制度がどのような方向に向かうのか、最新のニュースに基づき、白鷗大学教育学部川瀬善美教授に今知っておきたい介護ニュースを解説していただきます。

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「通所介護、通所リハビリの統合論議について」
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※最新ニュースは、シルバー産業新聞掲載記事を基に、同社の許可を受けて、弊社において一部表現を変更しています。

通所介護、通所リハビリの統合論議について

2018年の医療・介護の制度・報酬大改革に向けての各種委員会や検討会が目白押しで進み、いずれも利用者負担の強化、サービス対象・利用可能サービスの削減・厳密化がテーマになっているような気がします。その中でも、要支援1と2の予防給付の地域支援事業(新総合事業)への完全移行や、利用者負担の一律2割導入の改革案などが大いに気になるところです。

そのような中、通所系サービスである通所リハ・通所介護の統合案が再浮上してきました。これについては、すでに論議が行われ2015年介護報酬改定で一定の方向が示されています。2015年介護報酬改定の際、通所リハ・通所介護が機能と役割については、機能について大きな違いが認められないとして、「統合」なのか、機能を明確にしてそれぞれ「存続」させる、あるいは「再編」するのかについて議論が行われました。

しかし、その後の論議の中で、2018年診療・介護報酬同時改定において、本格的に機能に応じて再編統合するという方向性が主流となっています。これが現実のものとなった時、自施設は通所リハビリとして指定を受けていたとしても、国が求める機能・基準を満たさなければ、通所リハビリの報酬は算定できなくなることになります。
具体的には、「通所リハビリは、地域移行(通所介護、地域支援事業への移行5%)」・「回転率(平均利用48か月以下)のアウトカム指標」が設定され、今後、機能を高めるためにそのハードルは大幅に上げられることになります。

通所介護も2015年の介護保険制度の改定の中で、その機能によって「認知症対応」「中重度対応」、「機能訓練対応」、地域連携拠点機能等機能別に分類され、それぞれに応じた介護報酬(加算)が設定されました。

白鷗大学 川瀬教授はこのニュースをこう見る!

2018年診療・介護報酬同時改定では、さらに一層、「機能別に設定された加算要件のハードルを大幅に上げる」「機能ごとの新報酬体系が新たに設定される」ことが考えられます。そうなった場合、通所介護の多くが2015年以前度同様にレスパイト型(中重度対応)に留まっている以上、経営的に一層厳しい状態を強いられることになりそうです。

2018年に向けた介護保険・介護報酬改定の大きなテーマは「改革」であり、その改革の方向は、在宅ケア強化のための「地域包括ケアシステム」構築にあります。「統合」をテーマにして最小のコストで、最小のマンパワーで地域ケアを支える仕組みが始まることになります。また、報酬体系についても、やがて居宅サービスを包括報酬化するということも、国の視野に入り始めたということでしょう。

白鷗大学教育学部 川瀬善美教授
Mr.kawase

【プロフィール】専門分野は「社会福祉」。川瀬教授は、福祉を愛と奉仕の世界だけでなく、産業・ビジネスの視点から捉えていくべきと、早くから提唱してこられました。北欧、イギリス、ドイツの介護事情や、米国・豪州・韓国の介護ビジネスにも精通し、大学で教鞭を執られるかたわら、全国各地の高齢者施設・病院経営の経営コンサルタントとしても活躍中。理論面だけでなく、介護施設現場の実情も熟知されています。

通所介護、通所リハの統合求める意見も。「被保険者拡大」論点に

介護保険部会
シルバー産業新聞 2016年9月12日号

厚生労働省は8月31日、社会保障審議会介護保険部会(部会長=遠藤久夫学習院大学教授)を開催し、「ニーズに応じたサービス内容の見直し」について審議した。通所介護と通所リハビリの役割分担・機能強化、定期巡回サービスなどの普及、特養の重度者対応、地域共生社会実現に向けた地域包括支援センターの役割などが論点となった。さらに被保険者範囲の拡大も議題とされたが、委員からは時期尚早など反対意見が相次いだ。ニーズに応じたサービス内容の見直しでは、

①リハビリテーション機能の強化

②中重度者の在宅生活を支えるサービス機能の強化

③安心して暮らすための環境の整備

④地域共生社会の実現

4項目でそれぞれ論点を示し、委員からの意見を求めた。

 

リハビリテーション機能の強化では、通所介護と通所リハが今後、どのように役割分担と機能強化を図るべきかが論点とされた。事務局はリハ専門職の配置、利用者の基礎疾患や期待する改善目標、リハビリ・機能訓練による日常生活自立度や要介護度の変化などで、両サービスの差異がある一方、利用者の要介護度やケアプランの目標、利用時間、訓練の内容では類似していると説明した。

これに対して委員からは、「通所系サービスとして統合し、リハビリや重度者対応などの機能は報酬上の評価を上乗せする仕組みに改めてはどうか」(齋藤訓子・日本看護協会常任理事)と機能分化ではなくサービス類型の再編を検討すべきとの主張がある一方で、「医療機関や老健のみが開設できる通所リハと通所介護の一体化は困難。それぞれの質の評価が重要」(鈴木邦彦・日本医師会常任理事)との意見もみられた。

 

②中重度者の在宅生活を支えるサービス機能の強化では、小規模多機能、看多機(看護小規模多機能型居宅介護)、定期巡回サービスの普及を論点に掲げた。国は地域包括ケアシステム構築に向け、これらのサービスの普及に力を注ぐ。前回の改定でも一部要件緩和を行ったが、利用実態は国が描くようには進んでいない。

委員からは「地域ケア会議の場でモデル事例をケアマネジャーなどに紹介することにより、要介護3以上の定期巡回サービスの利用率が全体の2割強となった市町村もある」(馬袋秀男・民間介護事業推進員会代表委員)や「サービスに対しての理解が市町村によって差がある。市町村の支援を促すために、国や都道府県の情報提供を進めるほか、保険者への個別対応も必要。例えば地域支援事業の在宅医療介護連携推進事業のメニューに市町村職員の研修を位置付けてはどうか」など、市町村の積極的な関与とケアマネへの周知が必要とする意見があった。

 

③安心して暮らすための環境の整備では、特養の重度化対応が論点とされた。特養は昨年4月に新規入所が原則要介護3以上に限定、看取り介護加算も拡充された。委員からはさらに特養の重度者対応を強化するため、医療提供体制の見直しを求める声が挙がった。「配置医の業務と報酬の見直し、外部医師の関与のあり方について検討を行うべき」(鈴木邦彦委員)、「訪問看護などの医療系サービスが外部から提供できる仕組みを検討すべき」(齋藤訓子委員)。このほか未届けや前払い金の保全措置が義務付けられていない05年度までに建てられた有老ホームへの対策も論点として示された。一方で、全国老人福祉施設協議会介護保険事業等経営委員長の桝田和平氏は、「介護職員が一定の研修のもと実施できる医行為の範囲を拡大することで、より高い医療ニーズにも対応できる」と強調した。

 

地域共生社会の実現に向けた、地域包括支援センターの総合相談支援や市町村に配置される生活支援コーディネーターの取り組みが論点となった。厚労省は今年7月に地域共生社会の実現本部を設置。「丸ごと」の総合相談支援の体制整備を進めていく必要があるとしている。

「高齢者だけなく、障がい者や子育て世帯などを含めた地域包括ケアシステムの構築は重要。ただし今は、地域包括支援センターが総合事業への移行準備などで手が回らない。現場の実情に配慮しながら、段階を踏んで進めるべきだ」(大西秀人・全国市長会介護保険対策特別委員会委員長)、「地域包括支援センターが現行業務に加えて、障がい者や子育て支援に取り組むためには新たな人員の配置が必要になる。生活支援コーディネーターを活用すべき」(鈴木邦彦委員)など、地域包括支援センターの負担増を懸念する声があがった。

 

被保険者範囲の拡大は「時期尚早」

また今回は、介護保険の被保険者の範囲も俎上にのぼった。厳しい財政状況を背景にこれまでも検討がされてきたが、実現に至っていない。この日も第2号被保険者の対象を引き下げ、40歳未満から保険料を徴収することに「現時点では時期尚早」など反対意見が大勢を占めた。「被保険者の年齢を引き下がるほど、給付と負担の関係は薄くなる。まずは給付の重点化や効率化、自己負担のあり方の見直しが先決」(岡良廣・日本商工会議所社会保障専門委員)、「さきに特定疾病に限定されている第2号被保険者の受給要件を撤廃しなければ、若い世代の納得感を得られない」(齊藤秀樹・全国老人クラブ連合会常務理事)など、受給可能性の低い若年層に保険料を負担する理解が得られないとの意見が続出した。このほか障害福祉制度との合流についての課題を指摘する声や国民的議論が必要なテーマとの意見もあがった。次期改正での実施は非常に難しい状況といえそうだ。

同部会は次回より2巡目の審議がスタートする。年末のとりまとめに向けて、より具体的な検討が行われる。

出典:シルバー産業新聞 ウェブサイト→http://www.care-news.jp/
最新ニュースは「シルバー産業新聞」の協力により、著作権の許可を得て掲載しています。

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