介護の専門家に聞く!今知っておきたい介護ニュース その⑥ 「老健の認知症短期集中リハビリテーションに注目」

厚生労働省は2016年1月に全国で認知症を患う人の数が2025年には700万人を超えるとの推計値を発表しました。65歳以上の高齢者のうち、5人に1人が認知症に罹患する計算となります。
認知症高齢者の数は2012年の時点で全国に約462万人と推計されていて、約10年で1.5倍にも増える見通しです。厚生労働省は同結果を踏まえ、認知症対策のための国家戦略を急ぎ策定することとしています。

そのような状況の中で、すでに、2018年度からの第7期の介護保険制度改正に向けて、議論が始まっています。最新のニュースに基づき、白鷗大学教育学部川瀬善美教授に今知っておきたい介護ニュースを解説していただきます。
※最新ニュースは、シルバー産業新聞掲載記事を基に、同社の許可を受けて、弊社において一部表現を変更しています。

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「介護保険制度改正による「福祉用具」「軽度者支援」の今後」
「老健の認知症短期集中リハビリテーションに注目」
「在宅医療・介護連携事業の気になる現状とは」
「通所介護、通所リハビリの統合論議について」
「介護保険 過疎の課題を医介連携で対処」

オーダーメイドでメニュー実施『認知症短期集中リハビリ』

2018年は医療・介護の同時改定。病院の機能再編を推進する一方で、介護保険3施設の役割がより際立ちます。認知症の人のリハビリテーションとして効果が認められ、介護保険で老健や介護療養病床、デイケアで実施されてきた「認知症短期集中リハビリテーション」が、診療報酬上でも認められるようになりました。
認知症短期集中リハビリテーションは、リハビリによって生活機能の改善が見込まれる認知症者に対して、記憶の訓練や日常生活活動の訓練等を組み合わせた20分以上の個別プログラムを、週3日(通所リハでは週2日)提供するもので、期間は3カ月です。

◆実施されるリハビリは、
見当識(場所・季節・日時・人物等の確認)の訓練
注意力・集中力の訓練(パズル・計算問題・ぬり絵など)
記憶訓練(カードを用いた訓練など)
趣味活動(簡単な工作など)といったもの。

施設ごとにこれらを組み合わせて実施されています。
全国老人保健施設会の三根浩一郎副会長は、非薬物療法として注目される「認知症短期集中リハ」の効果を力説しました。

※インタビューの詳細は、文末に掲載しています。ぜひご覧ください。

白鷗大学 川瀬教授はこのニュースをこう見る!

認知症のケア、介護、リハビリの方法については、最近ようやく様々な研究・実践に基づき、新しいものが公表されはじめました。
認知症は、その原因によってさまざまな症状が現れ、障害特性と言うような特徴ある症状も現れます。
しかしこれまで、認知症と言う一つのカテゴリーで括られ、それに基づく単一のケアや介護方法ばかりが紹介されてきました。
これは、身体障害と言う単一のカテゴリーで括り、視覚障害者と聴覚障害者を同じ方法でケア・介護を行うものではないかという考えに基づいています。

医学的には、画像診断等の研究・技術が進化し、認知症となった原因を特定する事が可能となりました。これらの技術を活用し、それぞれの原因と障害特性に応じたケア・介護が行われるべきであろうと考えます。勿論、認知症に共通する障害・問題もあります。
しかし、認知症のケア・介護にとって重要な意味を持つ初期の対応策は、アルツハイマー型認知症とピック病による認知症では異なります。アルツハイマー型認知症の方には見られないピック病の幻視・幻聴症状にどのように対応するかが重要な課題となります。
また、反社会的な行動を引き起こしたときどのように対処したらよいかが、大きな問題となります。個々の症状、認知症のステージに応じたケア・介護・リハビリが求められます。

この記事で紹介されたように、まず個々の状況(障害程度、家族関係、生活歴、嗜好等)に応じた認知症リハビリテーションが重要であると考えます。
回想法、音楽療法、リアリティー・オリエンテーション、作業療法、音楽療法、アニマル・セラピーと様々な方法が紹介されています。

ただ大切なことは、「今どうありたいのか、何をしたいのか」を理解し、認知症の人の感情・行動の意味などを思い測り、ケア提供者はサービスを提供することです。

ディサービスやグループホームを訪問させていただいた際、このアクテビィティーの目的・効果等を説明もせず、塗り絵、計算問題の解答などが行われている場面に遭遇することがよくあります。
インフォームドコンセントと言う意味からも、まず「アクテビィティーの目的、効果」等を理解・納得してから行うべきです。そうしなければ、効果は薄れると思います。

また、「他者とのコミュニケーションを多くとること」が認知症リハビリにとって特に大切です。パズル・計算問題、読み書き、まちがい探し、ぬり絵等のアクティビティーは反対にコミュニケーションを少なくしがちなので、実施する際はバランスを考えて行う必要があるでしょう。

白鷗大学教育学部 川瀬善美教授

Mr.kawase S
【プロフィール】川瀬先生は、福祉を愛と奉仕の世界だけでなく、産業・ビジネスの視点から捉えていくべきと、早くから提唱してこられました。北欧、イギリス、ドイツの介護事情や、米国・豪州・韓国の介護ビジネスにも精通し、大学で教鞭を執られるかたわら、全国各地の高齢者施設・病院経営の経営コンサルタントとしても活躍中。理論面だけでなく、介護施設現場の実情も熟知されています。

シルバー産業新聞掲載記事にみる「認知症短期集中リハビリ

利用者にオーダーメイドでメニュー実施 
mine fukukaichou認知症短期集中リハビリ 認知症の中核症状と周辺症状に改善効果
シルバー産業新聞 2016年8月10日号

18年は医療・介護の同時改定。病院の機能再編を推進する一方で、介護保険3施設の役割がより際立つ。全国老人保健施設会の三根浩一郎副会長は、非薬物療法として注目される「認知症短期集中リハ」の効果を力説した。

――老健で生まれた認知症短期集中リハビリテーションが注目されています。

認知症の人のリハビリテーションとして効果が認められ、介護保険で老健や介護療養病床、デイケアで実施されてきた「認知症短期集中リハビリテーション」が、診療報酬上でも認められるようになった。医療保険で認知症リハビリが行われるのは世界でも初めてではないだろか。

当初、06年の介護保険改正で「20分以上60単位」として創設された認知症短期集中リハ加算は、09年に「20分以上240単位」に引き上げられた。14年の診療報酬でも「認知症患者リハビリテーション料」が設定されて、介護報酬同様に「認知症患者のリハビリテーションに関し適切な研修」が要件のひとつになった。

――どのように行うのですか。

認知症短期集中リハビリテーションは、リハビリによって生活機能の改善が見込まれる認知症者に対して、記憶の訓練や日常生活活動の訓練等を組み合わせた20分以上の個別プログラムを、週3日(通所リハでは週2日)提供するもので、期間は3カ月です。
◆実施されるリハビリ
見当識(場所・季節・日付・時間・人物等の確認の訓練)
注意力・集中力の訓練(パズル・計算問題・読み書き・まちがい探し・ぬり絵・道具を使った訓練)
記憶訓練(カードを用いた訓練・口頭での質問形式の訓練)
趣味活動(簡単な工作・手芸作品を一緒に作成)など。
ほかにも、散歩や体操、新聞・広告を見ること、歌、編み物、折り紙、園芸などがあり、施設ごとにこれらを組み合わせて実施されている。
メニューが豊富なほど、選択肢が広がり、一人ひとりに合った手法を用いることができる。

――決まった手法があるのではなく、相手に合わせて実施するのですか。

大事なことは、落ちた能力を引き上げることばかりに集中しないこと。
人によっては、落ちたところばかりやらされて、いや気が差して、意欲をなくさせる場合もある。脳トレだけをやっても、認知機能を高めることはなかなか難しい。機械的にメニューを実施するのではなく、一人ひとりに向き合いながら、コミュニケーションによって信頼関係を築きながら行っていくことが大切だ。
ご本人にとって、その時間が楽しい、またやりたい、会いたいと思える関係を作り上げることが、治療的環境となって、認知症ケアの効果を高めていると考えられる。

私はこのあたりにヒントがあると思っている。認知症のあるなしに関わらず、人と人とが交わすコミュニケーションこそが精神を賦活し、認知機能をも高めるのではないかと思う。
コミュニケーションは人が人として生きるということに欠かせないものだからだ。

――どのような効果が検証されたのでしょうか。

NMスケール(臨床的認知症スコア)を用いた効果検証では、認知症短期集中リハによって、まず身辺整理、関心・意欲・交流、会話、記銘力・記憶、見当識の改善が見られた。ADLや意欲の向上、周辺症状(昼間寝てばかり、介護拒否、暴言、無関心、昼夜逆転、徘徊など)の改善にもはっきりとした効果があった。しかし、抑うつの効果はなかった。制度上3カ月の制限があり、これでやめると効果は低下していくが、いったんやめても再開するとまた効果が見られる。こうした検証を通じて、同リハの実施による在宅への復帰効果が期待できると思われる。

――認知症のリハビリ効果が証明されたわけですね。

率直に言って、認知症リハを実施した群と実施しなかった群の間に、ここまで有意差が出たことに驚いた。改めに言うと、認知症ケアには、人と人との関わり合いが大事だということ。ただ、具体的にどのような手法を用いてどのように実施すればよいかが明記できないという面があるので、いま、効果を上げている施設での取り組みをDVD化する研究が行われている。映像で分かりやすく伝えることができれば、取り組みのスタート時点で役立つものになるのではないかと期待している。

――実施の老健は。

全老健のホームページに載せている。現在、全国1,195施設で行っている。

――認知症薬剤との併用はいかがでしょうか。

私は、認知症薬物との併用が効果を高める可能性は高いと考えている。
また、認知症薬剤の効果判定が国をまたいで実施される場合、介護保険がある日本が入ると、純粋に薬物の効果判定が見られないとして、日本が入ることが拒まれるという状況も生まれている。認知症ケアの効果を判定するのに、介護保険サービスを受けていたり、認知症短期集中リハをしていれば、薬剤の効果がストレートに判定できなくなるためだ。

認知症ケアは国を挙げての取り組みになっており、認知症短期集中リハが広く普及して、認知症ケアの効果をあげていきたいと思っている。

出典:シルバー産業新聞 ウェブサイト→http://www.care-news.jp/
最新ニュースは「シルバー産業新聞」の協力により、著作権の許可を得て掲載しています。

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