知っていますか? 介護職員が離職する本当の理由

8月3日、安倍内閣改造で加藤厚労大臣が新たに就任しました。その就任会見で、「次世代に引き継ぐため、効率化を図り持続可能な制度を作り上げる」と発表し、来年度に行われる診療報酬・介護報酬のダブル改訂についても「効率化できるところはしていくことが必要」と語っています。この効率化の意味するところに大いに関心がもたれます。その際、安倍首相より「介護離職ゼロ」に引き続き力を入れるよう要請された事も明らかにしましたが、今回は一層深刻さを増す介護職員の離職問題について考えてみます。

 

「6割以上」の介護施設で人材不足という現状

介護労働安定センターによると、同センター調査の結果では、介護職員が足りないと考えている事業所が昨年10月の時点で62.6%にのぼり、前年度より1.3ポイント増えたとしています。悪化は3年連続で、その理由を、「賃金」や「社会的評価の低さ」「仕事のきつさ」などとしています。

政府は2015年度の介護報酬改定で、マンパワーの確保に向けて「処遇改善加算」を拡充しています。しかし、その後も介護職員不足という事態は改善に向かっていません。国の財政・介護保険財政を踏まえ、介護職員不足が改善されていないという事実をどう評価するかが、来年度の改定をめぐる議論に大きな影響を与えそうです。
平成28年度 介護労働実態調査

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介護職員の離職理由 TOP3は?

介護職員が足りない理由として事業者は、73.1%が「採用が困難」としています。

「採用が困難」の原因をみると、「賃金が低い(57.3%)」「仕事がきつい(49.6%)」「社会的評価が低い(41.1%)」が多くなっています。

サービスを運営するうえでの問題点でも、「良質な人材の確保が難しい(55.3%)」や「十分な賃金を払えない(50.9%)」などが上位を占めています。

ところで、介護職員の離職についてみてみると、2015年10月1日から2016年9月30日の1年間の離職率は16.7%で、前年度より0.2%高くなっています。

離職理由として介護職員が挙げたのは「職場の人間関係」が23.9%でトップ。以下、「結婚・出産・妊娠・育児のため」が20.5%、「職場の理念や運営のあり方に不満があった」が18.6%と続いており、「収入が少なかった」は16.5%で6番目でした。介護職員の離職の原因は、賃金の低さが一番の原因ではないのです。
これらの結果からわかるように、事業者が考える「介護職員確保が難しい理由」と、介護職員が「辞める理由」とのズレに、一向に止まらない「介護離職問題」の原因があるように思われます。

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介護職場のストレス あるあるBest5

介護業界において人手不足はどこでも悩みの種です。募集しても人が集まらないだけでなく、せっかく採用してもすぐに辞めてしまう。これではいつまでたっても必要な人員を充足できません。 そこで今回、そんな状況を打開するヒントとして、介護職員が退職する理由を検証し、対策を考えてみました。前述のように、介護職員の退職理由の、1位は職場の人間関係に問題があったため(24.7%)、2位は法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため(23.3%)でした。

ふたつの合計が全体の48パーセントを占めていることから、事業者が考えるような「給与の安さ」や「業務の大変さ」よりも、「人間関係」「法人の理念や方針」を理由としていることが分かります。逆に言えば、上位2つを解決することができれば、50パーセント近くの離職を防ぐことができるかもしれないのです。職場は仲良し集団ではありませんので、中には気の合わない人、そりの合わない人もいるでしょう。

そうした感情をコントロールしながら仕事を進めて行くのが社会人としてのルールですが、介護職員のコミュニティは極めて狭いため、下記の理由により、我慢の限界が早く訪れてしまうようです。

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介護施設の介護職員は、基本的には決まったセクションで同じメンバーと働きます。関係性が円滑であれば問題ないのですが、気の合わない人とのチームケアは苦痛であり、ましてや二人きりの夜勤でのストレスは相当なものです。ほどよく移動などがあれば雰囲気も変わりますが、よほど多くの事業所を抱えていない限りそれも難しいことです。

また、看護師と介護職員の関係性の悪さも多くの施設が抱えている問題のひとつです。職業独占である看護師は、服薬やバイタルチェックなど介護職員の指導的立場になりやすいため、それを高圧的に感じる介護職員が多いということが言われています。

今日から実践できる!人間関係を改善する6つのこと

介護の職場では、考え方の違いから派閥ができることもあります。結果として殺伐とした雰囲気を作り出し、ある人はそれに耐え切れずに退職に至ってしまうのです。「いろいろな人がいるから社会なのだ」と正論をかざしていては問題解決にはなりません。このような問題が原因で離職が止められない時、速やかに人事権のある施設長や管理者などの施設責任者の介入が必要となります。以下の6つのポイントを参考に、人間関係を改善する方法について考えてみましょう。

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退職理由第2位の「法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため」については、施設責任者の言葉や振る舞いが影響していることも考えられます。「精一杯頑張っているのにねぎらいの言葉がない」など、施設責任者から見れば「そんなこと?」と思うようなことが、職員の不満につながるのです。
「いくら利用者に優しく」「相手のことを思って行動」などの理念を掲げていても、施設の施設長や管理者などが職員の勤務環境に無関心である場合、その理念も嘘臭く感じられてしまいます。また部下が困っている状態に対応しない上司など、誰もついて行きません。現場の中間管理職・担当者に任せきりにせず、一緒に考え、常に職員一人一人に気を配ることが重要なのです。

職場の人間関係が崩壊すると、チームワークが維持できなくなるだけでなく、個々のモチベーションが下がり、サービスの質が大きく低下します。事故が起きる危険も高まり、法人の破たんを招く最悪な結果になることにもつながります。介護業界の離職を減らすためには、施設の経営者や運営者たちが今一度、介護現場のより良い働き方について考える必要があるのではないでしょうか。

 

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