治療から支援・介助へ“飲み込む力”を考える

認知症の介護をしていると何かと話題に上がるのが胃瘻(いろう)のこと。認知症の進行や誤嚥性肺炎などをきっかけに医者から胃瘻を勧められて悩む方も多い事でしょう。

「口から食べてもらえる」ことは、介護をしている家族にとって何よりも気持ちが満たされるもの。介護する人と介護される人の最後のコミュニケーションのひとつとして、可能なかぎり大切にしたい行為です。今回は飲み込む力について考えてみたいと思います。

 幾度に及ぶ胃瘻の危機を乗り越え、経口摂取にこだわる。

私の祖母が最初に喉に食べ物を詰めたのは、施設に入ってしばらくが経過したころでした。カボチャを喉に詰めてしまい、発見されたときには顔色が変わっていたと聞いています。

ほぼ毎日、私の母が施設へ食事の介助に行っていましたが、在宅で祖父の介護もあり3食とも祖母に付き添えるわけではありません。救急搬送された病院で見た祖母の体はねじれていました。

入所後の相次ぐ転倒による骨折で、あまりに変わってしまった祖母の体をみて私自身戸惑ってしまった覚えがあります。そういった事が一度起きるとミル食になったり、検査をした後に胃瘻を勧められたりと、施設や病院のアドバイスが私たち家族を悩ませることになりました。

一貫して「胃瘻はしない」と決めていた母は、どこかで聞いてきた (おそらくつどい場で聞いてきた) マッサージをして、会話がなく無表情になった祖母の口唇や頬・舌を刺激しほぐしていました (我流なので正しくは専門家の指示に従ってください)。

結局幾度も胃瘻の危機はあったものの、施設を出て在宅介護になってからは、在宅医やケアマネなどの理解も深く、経腸栄養剤を経口摂取して胃瘻することなく最期を迎えることができました。

認知症の嚥下について家族も知識を持つ

介護

認知症の摂食や嚥下の問題は避けては通れないもの。もともと嚥下のリハビリは、脳卒中の回復期の嚥下機能の回復を期するために「訓練・機能回復」という考えを中心に発展してきたといわれています。

それもあってか、検査結果で食べ物を誤嚥している認知症の方に対して、躊躇なく胃瘻を勧めてしまうケースが多いのでは…と指摘するお医者さんもいるほどです。

ここで大切にしたい考え方は、認知症の嚥下が「治療」ではなく「支援・介助」であること。「脳卒中ではなく認知症に合わせた対応とは何だろう…」という素朴な疑問を私たち家族が持ってみることです。

時間の経過とともに回復が期待される脳卒中の嚥下障害と違って、認知症の嚥下リハビリは一部を除いて改善することは難しいと言われています。それは終末期を迎えた人間が、徐々に食べられるなくなるという自然な老いを想像すれば理解できる方も多いのではないでしょうか。

終末期のケアに正解はなく、症例や家族によって対応はさまざま。もちろん必要な胃瘻もあります。胃瘻に悩むご家族の方は、同じように介護に悩む人たちが集まる場で情報を得たり、信頼できる専門職の方に相談して、いま一度“飲み込む力”について考えなおしてみてはいかがでしょうか。また元気な間に当人同士で話し合っておくことも望ましいでしょう。

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