認知症の薬が「音楽」?!音楽療法のすごいチカラ

音楽療法という言葉を耳にしたことはありますか?ドラマのワンシーンでも認知症と音楽療法の関わりが取り上げられるほど、音楽療法は身近なものとなりましたね。実は、音楽療法には認知症の症状を和らげる効果があるといわれており、多くの現場で導入されています。少子高齢化の進行により認知症の方がこれから増えると予想される我が国において、音楽療法の需要は高まっていくことでしょう。

本記事では、音楽療法の効果や種類などの概要について解説したうえで、実際の導入例をご紹介します。

認知症に効果的な音楽療法とは

「日本音楽療法学会」の定義では、音楽療法は「音楽のもつ生理的、心理的、社会的働きを用いて、心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上、行動の変容などに向けて、音楽を意図的、計画的に使用すること」とされています。

音楽療法はさまざまな場所で活躍しており、医療機関、高齢者施設のほか、学校、刑務所などにも取り入れられています。

参考:一般社団法人 日本音楽療法学会「音楽療法士とは」
https://www.jmta.jp/music_therapist/

音楽療法の歴史

音楽療法には2種類あり、受動的音楽療法と能動的音楽療法に分けられます。どちらも音楽によって認知症の症状を和らげるという目的は同じです。

大きな違いは

● 受動的音楽療法:認知症の方が聴く
● 能動的音楽療法:認知症の方が歌ったり演奏したりする

というものです。

では、以下でそれぞれの特徴について解説していきます。

受動的音楽療法

受動的音楽療法は、認知症の方が音楽を聴くことで目的となる反応を引き出す音楽療法です。

● リラックス効果のある心理的音楽療法
● 気持ちを整え不自然な緊張から解放する調整的音楽療法
● 好きな音楽の範囲を広げて不安と取り除く嗜好的音楽療法

などがあり、それぞれ目的に応じて歌や演奏を聴きます。

受動的音楽療法は聴くことに重点が置かれているため、身体が不自由で起きることが難しい方でも、耳を傾ければ実施できることが特徴です。コミュニケーションの実施や情報の収集をしながら、相手の生活背景から好きな曲、思い入れのある曲を適切に選択できれば、治療効果は高いといえるでしょう。

能動的音楽療法

能動的音楽療法とは、認知症の方が歌ったり演奏したりすることで目的となる反応を引き出す音楽療法です。能動性を重視するため、認知症の方が主体になる必要があります。

例えば

● 合唱やカラオケ
● 簡単なリズムをとる
● 曲の演奏
● 音楽に合わせて体を動かす

などが認知症の方が実際に行うものです。

能動的音楽療法には、音楽を通じてコミュニケーションの機会が増えることに意義があります。自分にとっては心地よい音楽でも、相手にとって不快でないかなど、集団で行うからこそ注意すべき事柄があります。相手に配慮することでお互いの感情が安定したり、社会性が構築されたりするなどの効果が期待できます。

バイオリン

音楽療法に必要な資格

音楽療法の実施自体に特別な資格は必要ありません。医療や介護の現場にはさまざまな職種があり、看護師や介護士などの医療・福祉職が音楽療法を実施するのが一般的です。

しかし、音楽療法のもつ効果を最大限発揮したり、根拠をもって実施したりするためには、音楽療法の知識や技術を体系的に学ぶ必要があります。専門性を身に付けたいのであれば、日本音楽療法学会認定の音楽療法士の資格を取得するという選択肢もあります。所定のカリキュラム受講後、試験と面接に合格すれば取得可能です。

参考:一般社団法人 日本音楽療法学会「認定資格の取得について」
https://www.jmta.jp/music_therapist/become.html

音楽療法の効果

認知症の方を対象とした音楽療法の効果について解説します。以下の6つが主な効果です。

● リラックス効果:音楽がリラックス効果を与え、体の不調や認知症の行動心理症状が軽減される
● 脳の活性化:歌・演奏・身体活動などさまざまな活動を通して脳の広い部分が刺激される
● 自信の回復:記憶障害で忘れることがあっても、馴染みの歌詞やリズムを思い出すことで自信の回復を促せる
● 回想効果:もっとも輝いていた頃の情景や気持ちを音楽が思い出させ、精神が安定する
● 心の解放:孤独や不安な気持ちにより閉ざされた心が音楽をきっかけに解放され、他者とのコミュニケーション機会を生む
● 気持ちの表現によるストレス発散:音楽を自己表現のひとつとすることで気持ちを表現する機会になる

さまざまな効果があるため、認知症の方がどのような問題を抱えているかに着目し、問題に応じた関わりをすることが大切です。例えば、身体機能・覚醒・活動性などが低下している認知症の方なら、脳の活性化を狙い音楽療法と身体活動を同時に行うと効果的といえるでしょう。

音楽療法と認知症の関わりとは?

音楽療法は認知症と深い関わりがあります。なぜなら、音楽療法には脳の活性化の効果があるからです。特に重要なのは、脳の前頭葉という人間の理性や感情をコントロールする部位の活性化です。

認知症の方は、記憶障害などに代表される認知機能障害のほか、脳の前頭葉の機能低下による不安・焦燥感・暴言・暴力・徘徊などの行動心理症状がしばしば問題とされます。音楽療法の脳機能に関する研究によると、音楽療法には前頭葉の働きを促進する効果が見込めるといわれています。つまり、認知症による問題行動を改善させる効果が期待できます。

このように、音楽療法には認知症の症状を和らげる可能性があることから、認知症と深い関わりがあります。高齢者施設で導入することで、大きな活躍が見込まれるでしょう。

認知症に効果的な音楽療法の実践方法

認知症の方に効果的な音楽療法の実践方法について、主に病院や介護施設での一例をご紹介します。

開始の挨拶と導入

進行役のスタッフが、挨拶や簡単な日付の確認、季節の話題等でコミュニケーションをとります。その際、認知症の方の反応や覚醒状態を確認しながら進めます。

身体活動を通した覚醒状態の改善や活動への興味付け

覚醒が低い方などには、特に身体活動(簡単な手足の体操や深呼吸など)を通して覚醒状態の改善を図るとよいでしょう。また、これから音楽を聴く・演奏するなどの情報を伝え、活動への興味付けを促します。

季節の曲で見当識の確認や回想効果を狙う:受動的音楽療法

見当識とは、「いつ」や「どこ」などを把握する能力のことです。今の季節がいつなのかを確認し、季節に合った曲を流したり、スタッフが演奏したりします。また、季節と懐かしさを同時に感じることで「リラックス効果」や「回想効果」が得られます。相手がリクエストした曲を採用してもよいでしょう。

認知症の方同士で歌う・演奏する:能動的音楽療法

受動的な音楽から能動的な音楽へと流れを変化させることが大切です。先ほど聴いた曲を認知症の方同士で歌ったり演奏したりして、能動的な活動により得られる効果を狙います。歌いながら体を動かしても良いでしょう。すると、「脳の活性化」「心の解放」「気持ちの表現によるストレス発散」などが期待できます。

終わりの挨拶とリラクゼーション

活動後は、気分が高揚する方もいらっしゃいます。リラックスできるようテンポの遅い曲や静かな曲を聴き、深呼吸して気持ちを落ち着かせることが大切です。

ご紹介した内容はあくまで一例であり、必ずしも受動的音楽療法と能動的音楽療法の2種類を実施するとは限りません。対象者の反応や様子に合わせて適宜内容を変える必要もあることには注意が必要です。

認知症に音楽療法を活用しよう

この記事では音楽療法の概要や実際の導入例についてご紹介しました。認知症の方がいらっしゃるご家族の方や、高齢者施設の職員の方はぜひ、音楽療法を実践してみてください。まずは「4~5分程度」「1曲だけ」程度の短い時間で認知症の方の反応を見てみるとよいでしょう。

※参考:音楽療法の脳機能に関する研究 ―近赤外分光法を用いた音楽聴取時の脳活動の評価―

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