コミュニケーション技術を変えれば、認知症のお年寄りの行動も変わる

お年寄り夫婦 介護にプラス

毎日さまざまなやりとりに困惑することも多い介護の暮らし。事実と違うことを主張する認知症の方が、家庭内でトラブルになってしまうこともあります。そんな認知症の方に対して、さまざまなコミュニケーション技術で改善を図るケースもあるそうです。

家族も知らない昔の記憶に対応のヒントが隠されている

同じ家の中にいても認知症になってからの祖母は、「どこか孤立感がある」「退屈そう」「家事など自分の役割がほしい」などの感情があったように思います。直近の記憶が弱く、若い頃の遠い記憶を鮮やかに思い出すこともありました。

祖母は認知症になってからときどき東京駅周辺の話をするようになりました。後に家族も知ったことですが、祖母は故郷から東京へ奉公に出ていた頃があったようです。子どもの頃に故郷を離れて働くことを想像すると、きっと家族と離れて寂しい思いをしていたことでしょう。認知症になってから故郷への思い入れはさらに強くなり、故郷の姉から電話があると涙を流して話すなど感傷的な面が見られました。

事実と異なる記憶を主張する祖母

夕食の時間に家族6人で食事をしていると、認知症の祖母(母方)が急に怒り出しました。「この家は私の実家が出したお金で建てた!おまえたちは私に嫌がらせばかりする。」このようなことを言っていたと思います。

それを聞いた私の父親は「自分が建てた」と怒り出しました。普段は怒るようなことがない父親でしたが、苦労してローンで建てた家なのでどうしても我慢できなかったようです。母親も「これはお父さんに建ててもらった家で、おばあちゃんはお金を出していない!」などと事実を言い聞かせていました。
その後、祖母が暴れてしまい、家族内にしこりが残りました。私自身、家庭内のトラブルとは無縁だったので、家庭内の環境に気が滅入った記憶があります。

「バリデーション」などコミュニケーション技術による治療も試してみたい

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「バリデーション」とはアルツハイマーや認知症のお年寄りとコミュニケーションを行うセラピーのひとつ。問題のある行動の裏側にどんな意味があるのか、患者さんの人生に寄り添って考えたり共感して接する療法といわれています。私たち家族は正しい事実だけを言い聞かせようとしていましたが、それでは認知症の方に通じません。認知症の方の心理を少しでも理解し、専門家による適切なコミュニケーション技術で治療していれば、祖母の症状も緩和し、家庭内のトラブルも防げたのではないかと思います。

祖母が亡くなってからバリデーションの知識を持つ方に「きっと奉公に出た頃の感情が、故郷のお金で家を建てたと言わせてしまったのでしょう。人の歴史は変えられないので、過去の記憶を専門的な技術で聞き取っていれば、症状を軽減できたかもしれません」と教わりました。

祖母が若い頃に感じ胸に終い込んだ感情に寄り添えなかったこと。今でも私たち家族は寂しく思い、バリデーションをはじめとしたコミュニケーション技術を利用した治療に思い至らなかったことを悔やむときがあります。

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